羞恥に包まれて
       一条きらら

 暖かな春の朝──。
 佳代はベッドの上で、
「ん……」
 と、かすかな声を洩らし、眠りの底から、少しだけ浮かび上がった。下半身を、夫の手で、まさぐられているのを感じたからだった。
「うふ」
 思わず、しのび笑ってしまう。ネグリジェの裾がまくられ小さなパンティを、夫の手がモゾモゾと、佳代の目を覚まさせないように、そっと脱がせている。
 愛撫が始まれば、目を覚ました佳代の肉体が反応してしまうのに、夫はわざと、そんなやり方をしているのだ。
 パンティを足首から、そっと抜き取られ、秘部に空気が触れるのを感じた。
 次は、夫の指か唇が、そこに触れてくるとわかっている。
(健介さんたら、当分、わたしを抱けないからだわ)
 まだ目が覚めきっていない頭の隅で、チラッと思う。
 商社に勤める夫の健介は、アメリカへ一年間、単身赴任することになり、今日、出発する。
 国内の単身赴任と違って、毎月、帰宅することはできない。
 三十九歳の佳代と、四十三歳の健介は、結婚して十一年。毎晩のように体の交じわりをする習慣があった。
 それほど深く愛し合っているというより、夫の性欲が、人一倍強いのである。
 昨夜も、いつもより時間をかけて濃厚なセックスをした。
「おれが留守の間、不倫なんかするなよ」
 ベッドに入ったとたん、健介が佳代を抱き寄せて言った。
「あなたこそ。アメリカ人女性と遊んだりしちゃイヤよ」
「そんなことするわけないだろ」
「わたしだって、不倫なんて……」
「我慢できるかな。この体が」
「できるわ」
 我慢するどころか、ホッとするわと言いたくなるくらいだった。
 生理の数日間を除いて、毎晩、夫から体を求められ、佳代は内心、ウンザリしていたのである。
 けれど、拒絶して、夫に浮気でもされたら──と、それが心配で応じていただけだった。   〈続く〉
 


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